ニューアパレルビジネスの経営ポイント
1. 高度な人材育成、外国人スタッフなどの導入による人的レベルのアップ
アパレルビジネスは唯一のヒューマンビジネスである。つまりマンパワーの人的な部分である人間の感覚、感性、分析力、構成力、そして想像力が中心になって成り立つビジネスであり、コンピュータやハイテク機器ではなしえない部分が大きいことからも解るように高度な人的資源が最大のポイントだろう。そして、なぜ外国スタッフが必要かというと、感性面、考え方においても地球規模で行う時代に入ったからである。そして特にクリエイション活動においては、海外のデザイナーとの提携も依然として続いているが、今後は自社のスタッフ、仲間として取り入れたい新しいビジネススタンスを構築する時期にも入っているからである。

2. オフィス環境の整備充実、ソフト面のOA化、システムの導入
これらは言うまでもなく、今やすべての業界が真剣に取り組んでいる問題である。日本のオフィス環境は長い間、効率第一主義を掲げスタッフの給料も「人件費」というコスト管理に置かれ、工業化社会的な発想で経営が行われていた。しかし今日、ある程度の豊かさが基本となってきた環境においてソフトウエアの充実が叫ばれているにもかかわらず、アパレル業界がこれを他業界に先駆けて行わなかったのは不思議でもある。本来、「時代の美意識」や「夢」を創造し、売っていくという業界、業種としては信じられない現実でもある。今や他業界はフレックスタイム、リフレッシュ休暇、ボランティア活動に対する会社支援、在宅勤務システムやベビーシッター等の提供による女性スタッフへの職場復帰システムなど数え上げればきりがないほどの職場環境に対する企業努力が見られる今日、これらは先述した人材問題と大きくリンケージしてくる問題でもある。ソフト面のOA化、システム化という問題は、現在のOA化の実体がハードを中心とした売り上げ・仕入れなどの計数管理に重点が置かれていて、ソフト面、つまりマーケティングやMD作業に必要な情報分析をクリエイションやプロモーション活動へのフィードバックに活かせるソフトの開発が遅れている。早期にそれらを構築し、そしてシステム化することで人的パワーの省力化(これからの効率追求)に役立つはずである。つまり、モノ以前に人的ソフトがもっとも重要であるといえよう。

3. 国際的な商品開発システムと生産基地のネットワーク化等の導入
これらのプロジェクトは日本の商社機能を使えばかなりのことが可能であると思う。なぜなら、世界的な生産基地をネットワークにもつ商社は、各生産基地の特色、地域性をフルに生かしたコーディネートを行うことができ、新しい商品開発が可能になる。たとえば前回触れたように、ラテン+ゲルマンのクリエイティブを起点として、素材はイギリス、イタリア、スイス、スペイン、中国のいずれかを組み合わせ、加工はハンドメイド部分を中国か香港に、最終加工を韓国、そして、それらをトータルに日本サイドのMD、オーガナイズを行い、それらの商品のマーケティングを世界的なブランド戦略で構築していくなどのシステム。また近い将来、ハイテク技術を駆使したニュープロダクトシステムの導入も省力化の意味でも急務である。

4. 文化・アート分野とのジョイント
21世紀の企業の文化事業のあり方や方向性、そして我が国においても「メセナ」や「フィランソロビー」などの機運も高まりつつあるが、ほとんどの一般企業においてはまだそのノウハウや人材が欠如しているのが現実であろう。特に今後のアートに分野は、オークションやディーラーなどのインベストメントなアートビジネスとは違う意味でのファッションビジネスとのリンケージ効果を期待しなければならない時期にきている。たとえば新しいコンセプトのミュージアム(建築、アート、ファッション、音楽等)や様々な分野のアーティスト達のプロデュースによるトータルブランドビジネスの創出なども十分考えられる。

5. 株式公開による上場・資金導入
「本来アパレルビジネスはマイノリティーであるべきだ」という説も確かにあると思うが、今回のシリーズでも述べているように今やファッションという定義が衣服のみでなく広義のモノとして捉えてきた現在はビジネスのスケールのアップを目指すことによって、共感を主軸とする異業種群の資本参加、ジョイントベンチャーなどによる総合的ファッション事業体を実現していくべきであり、そのような方向を目指すことが「総合生活文化産業」へと変化していくことにもなり、ニューアパレルがそのイニシアティブをとるべき。悲しいかな現在これらの要素を満たしている企業はほんの一部であろう。しかし、現在は30代後半の経営者を中心に大きな問題意識や危機感をもって内部組織のリコンストラクション(再構築、再編成)の動きが始まったことは見逃せない。彼らの目指している企業像は知的頭脳集団とも言えるマンパワーをベースにした「ニューエクセレントカンパニー」であり、全く新しい概念や思考、そして計算された組織力などをスタンスとして変貌しようとしているのだ。